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Falling Leaves (Fluid-Structure Interaction)

自動車の車体周りの空力計算や航空機の翼周りの計算には長い歴史があり、成熟した数値計算分野になっています。しかし、そこでは静止した車に風が当たる(車が一定速度で走るのと同じ)場合に車が受ける力を計算しているに過ぎません。本来は、風の抗力により減速したり、ボディが変形したりしているはずです。

 流れと構造物の連成(相互)作用の研究は始まったばかりで、その数値計算手法の開発がどうしても必要です。血流についても拍動に伴って上下する圧力と血管壁が弾性的な連成作用を行っており、より現実的な血流シミュレーションを行うには流体−弾性体の連成問題として計算する必要があります。

 研究の第一歩として、紙切れ(名刺)の落下と枯葉の落下の数値シミュレーションを行いました。しかし、数値シミュレーションとしては難易度C++と認識されていて、うまく計算できた人はいません。

紙切れや枯葉が落下し始めると、周囲の空気から抗力や抵抗を受けて姿勢が変わります。すると、その姿勢に対して流れは異なった抗力や抵抗を与えます。名刺や枯葉の周りの流れも、姿勢により変化しますから、数値シミュレーションをしない限り落下軌道を予測することはできません。

 流体力学の教科書に、よく「舞い落ちる枯葉の軌道を流体力学では予測できない。」と書いてあることがあります。これは流体力学が強い非線形現象を含んでいて、ほんの僅かな初期値(今の場合は姿勢)の違いで、結果が大きく変わるカオス現象だからであるということです。確かに、10mの距離を舞い落ちる枯葉の最終的な落下位置を正確に予測することは無理でしょう。非線形現象には可予測限界というものがあります。我々は、可予測限界の範囲内で流体−構造体連成問題を数値シミュレーションにより研究しようと考えています。


名刺の落下

名刺のような紙切れをほぼ水平に持って手を離すと、名刺は「ひらひら」と左右にはためきながら落下します。まずは、この軌道が再現できなければ話になりません。数値計算手法としては、局所補間微分オペレータ(IDO: Interpolated Differential Operator)法に加えてカットセル法を導入することで、紙切れの厚さを数値計算格子に対してゼロと見なした計算をしています。さらに、紙切れの表面には境界層ができるので十分な空間解像度を確保するために、紙切れとともに移動する重合格子法も使っています。

ほぼ水平に落下し始めた名刺は僅かな傾きの方向(例えば右)に揚力を受けて水平方向に移動します。しかし、空気抵抗がありますから減速し、水平方向の移動が止まる頃には名刺の先端付近の圧力は上昇し、重力に抗する圧力の低い後端は下に下がります。そうすると落下に対して横方向に働く揚力の向きが逆になり、今度は左方向の水平移動が始まります。この繰り返しが名刺のはためきです。数値シミュレーションでも、名刺の「ひらひら」をかなり忠実に再現できました(動画参照)。名刺の最初の姿勢を急角度にすれば、名刺は「すー」と落ちて大抵は途中で宙返りをします。残念ながら計算領域が狭いために、この宙返りまでは計算できませんでした。

 


舞い落ちる枯葉

名刺の落下の場合と同じ計算手法で枯葉の落下する過程に対して数値流体シミュレーションを行いました。空気に対しては非圧縮性流体とし、乱流が発生しない低いレイノルズ数の範囲で計算しています。枯葉の形状に対しては、実物の眺めながらCGソフトでそれらしい形状を作成しました。CADデータ・フォーマットの一つであるDXFファイル形式にします。枯葉は約200ポリゴンで表現されていて、計算の中ではカットセルにより計算されています。数値シミュレーション結果は動画を見て頂くとして、初期の枯葉の姿勢で落下軌道は大きく異なるのは確かなことでした。ただし、ここでは枯葉の弾性変形は考慮されていません。


参考文献

青木 尊之, 肖 鋒: "複雑形状の複雑でない計算法",「情報処理」Vol.42, 6月号, 2001年, 551-556.
T. Aoki: "3D Simulation for Falling Papers", Computer Physics Communication, Vol.142, 2002年, 326-329.
Y. Tanabe, K. Kaneko: "Behavior of a Falling Paper", Physical Review Letter, Vol.73 (10), 1994年, 1372-1375.