Research

Home > Research > Dendritic Solidification

Dendritic Solidification

液体から固体への相転移である凝固過程は、過冷却の場合にしばしば不安定となり、非常に複雑な形に成長します。冬の寒い日の窓ガラスに氷の結晶(雪印)ができているのををよく見かけますが、一般的に樹枝(木の枝)のような形に凝固が進むので樹枝状凝固成長と言われています。支配される物理モデルは単純で、流体運動が無視できるならば固相と液相のそれぞれに対する熱伝導だけです。ところが、液相と固相の界面では2つの相が共存するため、熱力学的条件としてGibbs-Thomson 条件が満足されなければなりません。これは、界面形状や物性値、融解温度などの関係式です。さらに、凝固が進むということは固−液界面が移動するということですから、界面の通過した部分の相変化に対応した潜熱の出入りが発生します。このように界面における条件は強い非線形となり、第3種境界値問題と呼ばれています。凝固や融解の問題は18世紀から研究されていて数学的にはシュテファン(Stefan)問題と呼ばれています。安定な成長過程には解析解までありますが、不安定になると界面形状が複雑に成長するようになり、数値シミュレーションの中でも難しいテーマと言われています。

なぜ不安定で樹枝状になるかと言うと、界面の表面積は界面の曲率が大きい(とがる)ほど広くなります。(小腸の柔突起などと同じです。)つまり、界面のどこかが一度尖りだすと、その部分の成長が促進されてさらに尖ります。しかし、表面張力が働きますから、どこかで先が丸くなり成長速度が決まります(Mullins-Sekerka不安定性)。ただし、色々な場所がさまざまな方向に尖るので、突起同士がぶつかりそうになります。この場合には温度場が変わるために成長速度が変化するので、どうして樹枝状になるのかは十分に分っていません。ましてや非定常の早い成長過程など全く予測の付かない現象です。

ところが氷の結晶でも分る通り、全体的には特徴的な形があります。結晶には特有の形があります。勿論、分子構造の異方性にも関係がありますが、所詮分子オーダーの方向性であるにも関わらず、マクロのスケールで特徴的な形ができるのが大変興味深い点です。生命現象にも共通する部分があるのではないかと強く感じています。

 樹枝状凝固成長の数値シミュレーションの難しい点は、変形する複雑な界面形状にあります。幾つかの方法が提案されていて、大きく分けるとマーカー粒子などで界面を追跡する方法と、識別関数のある値の断面として界面を表現する方法に分けられます。我々は識別関数としてLevel Set 関数を導入し、界面以外の場所については局所補間微分オペレータ(IDO: Interpolated Differential Operator)法で温度場を高精度に解いています。第3種境界条件を満足させるのにかなりのテクニックが要りますが、3次元の樹枝状凝固成長のシミュレーションを行って、ある程度の結果が出ています。

参考文献
青木 尊之, 肖 鋒: "複雑形状の複雑でない計算法",「情報処理」Vol.42, 6月号, 2001年, 551-556.
Juric, D. and Tryggvason, G., J. Comp. Phys. 123, (1996) ,127.
Mullins, W.W. and Sekerka, R. F., J. Appl. Phys. 34, (1963), 323.